教育目的の内容です。医療上の助言ではありません。診断や治療計画の代わりにはなりません。その相談は、ご自身の担当医や医療者と行ってください。

30秒でわかること

  • 躁状態とうつ状態は、同じ人を正反対の言葉で描きます。 並べてみると完全に矛盾しているので、両方が真実であることはありえません。
  • 「どちらが本当の自分か」は、間違った問いです。 どちらの極端も、本当の自分ではありません。どちらも、同じ脳が二つの異なる設定で動いている姿です。
  • 躁状態はすべてを膨らませ、うつ状態はすべてを消します。 気分はレンズであって、事実ではありません。
  • 穏やかな日に「真北のメモ」を書きます。 自分がどんな人かという平易な事実を、気分が「そんなのは真実じゃない」と言い張る日のために取っておきます。
  • 完全な確信そのものを、症状として扱います。 自分の価値や未来についての考えが絶対的に感じられたら、真ん中の状態に戻るまで判決を延期します。

同じ火曜日、二つの世界

ひとつ目の朝、窓から差し込む光はほとんど美しく見えます。コーヒーもほとんど要らず、今日は何でもできそうです。

ふたつ目の朝、同じ光が灰色で無意味に見えます。歯を磨くだけで山を登るようで、平らな声が「自分は負担だ」と繰り返しています。

ひとつずつ経験しているときは、どちらの朝も、それが真実のすべてのように感じられます。でも並べてみると、どちらも単独では教えてくれないことが見えてきます。

8つの項目を、並べてみる

  • エネルギー。 上向き:底なしのタンク。昼までに事業を始められそう。下向き:タンクは空で、エンジンには濡れた砂が詰まっている。
  • 思考。 上向き:止められない放水のよう。下向き:泥のように粘り、ひとつの考えを終えるだけでも努力が要る。
  • 自分の見え方。 上向き:才気にあふれ、特別に選ばれ、何でもできる。下向き:価値がなく、失敗で、知っている人全員の負担。
  • 世界。 上向き:鮮やかで、音が大きい。下向き:灰色で平ら。彩度をゼロまで下げたよう。
  • 時間。 上向き:飛ぶように過ぎる。ふと顔を上げると、なぜか午前3時。下向き:凍りつく。ひとつの午後が一週間にも感じる。
  • 危険。 上向き:無敵で、今すぐ行動すべきだと感じる。下向き:どの扉の後ろにも破局が待っている。
  • 他の人。 上向き:人を引きつけ、話が止まらない。下向き:人は疲れる。断ったほうがいい、消えたほうがいい。
  • 未来。 上向き:限界がなく、すべての扉が開いている。下向き:扉のひとつもない、鍵のかかった灰色の廊下。

同じ人です。同じ人生です。まったく違う、二組の目です。

人を静かに苦しめる問い

どちらの状態にいるときも、今のこちらが本当の自分で、もう一方は偽物だったと、完全に確信します。

躁状態のときにうつ状態を振り返ると、「あれは怠けていて弱かっただけだ」と考えます。うつ状態のときに躁状態を振り返ると、身がすくみます。「あれは自分じゃない、狂気だった。恥じるべきだ」。

どちらの状態も、もう一方を自分ではないと切り捨てます。だから、何年も「どちらが本当の自分なのか」という問いに捕らわれてしまうことがあります。正直な答えは、どちらの極端も本当の自分ではなかった、です。どちらも、同じ脳が二つの異なる設定で動いていたのです。

どちらの声も、真実を言っていない理由

二つの列は、ただ意見が食い違っているのではありません。同じ人生を生きる同じ人について、完全に矛盾しています。月曜には失敗しない天才で、木曜には価値のない負担、などということはありません。ずっと、同じ人です。

だから、どちらの状態もうそをついています。ただ、反対の方向に。本当の自分は、神でも虫けらでもありませんでした。本当の自分は、真ん中にいる人です。基準線にいる、いつもの自分。両方の状態が、そこから引き離そうとしている人です。

気分はレンズであって、事実ではありません。 このことが本当に腑に落ちると、状態は、いちばん深いところにあった力を失っていきます。見せているものこそが自分なのだと、信じ込ませる力です。

青い面の上に並ぶ二枚のガラスレンズ。ひとつは温かな金色に光り、もうひとつは澄んで冷たい。

それぞれのレンズが渡してくる判決

うつ状態は、気分を悪くするだけではありません。結論を出させます。 自分は失敗だ。希望はない。自分がいないほうが、みんなのためだ。それを、あの平らで、完全な声で告げます。

躁状態は、気分をよくするだけではありません。行動させます。 仕事を辞める、メッセージを送る、お金を使う、関係を断ち切る。

どちらの状態も、人生全体についての判決を渡してきて、それが真実だと言い張ります。その状態の中にいるうちに判決に署名してしまうと、気分が過ぎたあとも何年も残る損害を生むことがあります。

安全についてのひとこと

うつ状態が「自分は負担だ」「ここにいるべきではない」と言ってくるとき、それは病気がいちばん強くうそをついているときです。真実ではありません。あなた自身でもありません。症状であり、症状は過ぎていきます。

今その声が大きく聞こえているなら、どうかひとりで抱えないでください。今日、誰かに連絡してください。日本では、生命や身体に差し迫った危険があるときは 119(救急) に、暴力や事件など警察の緊急対応が必要なときは 110(警察) に連絡してください。死にたい・消えたい気持ちがあるときは #いのちSOS 0120-061-338、つらさや孤立をひとりで抱えているときは よりそいホットライン 0120-279-338 に相談できます(いずれも通話料無料)。危機のページに国別の窓口をまとめています。

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道具:「真北のメモ」

ものの見え方そのものが状態によって変わるので、その状態が自分について下す判決は信頼できません。状態の外に、アンカーが必要です。

穏やかで、何でもない日に、実際に真実であることを、平易な文でいくつか自分宛てに書いておきます。

  1. 本当の自分はどんな人か。 そして、実際に何を大切にしているか。
  2. これまで、すべての状態を生き抜いてきたこと。 どの落ち込みも、どの高揚も。
  3. 愛してくれる人がいること。
  4. 高揚も落ち込みも、どちらもうそをつく、という一文。
  5. 日付のついた、証拠の一文。 たとえば「去年の冬もまったく同じように感じて、六週間で和らいだ」。

自分の字で書いた事実が、気分が「そんなのは真実じゃない」と言い張る日を待っていてくれます。すぐ見つかる場所に置いておきます。状態が「止められない」とか「価値がない」とか判決を渡してきたら、気分ではなくメモを読みます。いちばん穏やかな自分の一票で、ゆがんだ自分の一票を上回らせるのです。

テーブルの上に開いて置かれた手書きのメモと、その上の小さな真鍮のコンパス。

ルール:確信は症状である

メモに、シンプルなルールをひとつ添えます。

自分の価値や未来についての考えが、絶対的な感覚をともなってやってきたら——どちらの方向であれ、完全な確信とともに——その確信そのものを、症状として扱います。 そして、判決を延期します。

真ん中の近くに戻るまでは、取り消せない決断も、自分が何者かについての最終的な結論も出しません。真実は、いつもの自分に戻るまで待てます。そこにたどり着いても、真実なら、まだ真実のままです。

あなたは、その下にいる安定した人です

あなたは、二つの極端ではありません。その下にいる、安定した人です。いちばん穏やかな自分が書いたメモを読み、嵐よりもその自分を信じることを選んでいる人です。

大切なのは、レンズに決められてしまう前に、今どのレンズをつけているのかに気づくことです。そのための簡単な方法がほしいなら、気分グラフをやめて、3行だけ記録するから始めてみてください。複雑な表は要りません。

そして、どちらの列にいるときも、自分にやさしくしてください。