教育目的の内容です。医療上の助言ではありません。自分やほかの人を診断するためのものでもありません。ここに書かれたことを理由に、自分の判断で薬を始めたり、やめたり、変えたりしないでください。その相談は担当医と行います。

30秒でわかること

  • 1つのエピソード、3つのレンズ。 内側からどう感じられたか、まわりの人が外側から何を見ていたか、そして臨床家が何を評価するか。どれにも役に立つ情報が含まれています。
  • 診断は地図であって、アイデンティティではありません。 診断が表すのはパターンとなりやすさであって、人柄や未来ではありません。
  • 安定はシステムです。 医療、心理療法と心理教育、毎日のリズム、そしてまわりの人たち。すべてが一緒に働きます。
  • 一般的なチェックリストより、自分のパターンです。 シンプルな気分の記録表と、いつもの自分がどんな状態かをはっきりつかんでおくことで、自分の場合に変化がどう始まりやすいかが見えてきます。
  • 早めに決めておきます。 調子がよいうちに、短い予防プランを書いておきましょう。そして、回復は症状のコントロールより大きいことを覚えておいてください。

この本について

『本人と家族のための双極症サバイバルガイド』(The Bipolar Disorder Survival Guide)は、臨床心理学者デイヴィッド・J・ミクロウィッツ(David J. Miklowitz)の著書です。この書評で取り上げるのは、2019年にGuilford Pressから出た第3版です。出版社によれば、35万部以上が刷られています。

双極症(双極性障害)とともに生きる人と、その人を支える家族に向けて書かれた本で、扱う範囲が異例なほど広いのが特徴です。診断、薬、心理療法、気分の観察、躁状態、うつ状態、人間関係、仕事、スティグマ、家族の生活まで。そのおかげで参照する本としての価値は高いのですが、診断を受けた直後に読みこなすには量が多い本でもあります。

学び1——同じエピソードを見る3つのレンズ

体調を崩していた1つの時期を、3つの立ち位置から見たところを想像してください。内側からは、エネルギー、切迫感、考えが止まらない状態が思い出されるかもしれません。うつ状態なら、重さや頭のもやかもしれません。外側からは、パートナーが、睡眠がとても短かったこと、口論、出費を覚えているかもしれません。臨床家は、症状のまとまり、いつもの自分からのはっきりした変化、それがどれくらい続いたか、そして何に影響したかを見ます。

本人は「やっと自分らしくいられた」と言い、家族は「いつものあなたじゃなかった」と言うかもしれません。本書は、どちらかを勝者にはしません。3つの見方がたがいを補い合えるようにします。受診の前には、きれいにまとまった話ではなく、簡単な時系列を持っていきましょう。

家族にとっても、よりよい言葉が手に入ります。「あなたは手に負えなかった」は非難です。「4日のあいだに、睡眠が3時間になり、いくつも計画を始め、いらだちが強くなったのに気づいた」は観察で、臨床家にとってもずっと役に立ちます。

学び2——診断は地図であって、アイデンティティではない

ミクロウィッツは、その人と病気とを繰り返し切り離します。診断が表せるのはエピソードのパターンであって、価値観や創造性、未来ではありません。そして、強い感情がすべて症状なのでもありません。

ですから、「あれが本当の自分だったのか、それとも双極症だったのか」と問うかわりに、もっと役に立つ問いを試してみてください。この体験のどの部分が自分という人間を映していて、どの部分が気分や睡眠、思考、判断の変化を映しているのかもしれないか。

そして、エピソードは誰かを傷つけた言動の説明にはなりえても、それで修復やこれからの備えが不要になるわけではありません。これは、非難にも、全面的な免責にも寄らない、より人間的な立ち位置です。

学び3——安定は1つの治療ではなく、システム

本書は、処方される薬を多くの人にとってケアの中心として扱いますが、構造のすべてだとはしていません。いくつかの層として考えてみてください。医療。心理療法と心理教育。睡眠、食事、活動の毎日のリズム。そして、つらい時期のためのプランを備えた、支えになる環境。どの層も何かを保証するわけではありませんが、組み合わさることで、変化に早く気づける可能性は高まります。この見方は、害になる2つの物語を終わらせてくれます。薬だけですべてが解決するはずだ、という物語。そして、自己管理さえ十分なら治療はいらないはずだ、という物語です。

ミクロウィッツはコンコーダンスという考え方を使います。ふつうの言葉で言えば、協働ということです。薬を自己判断で変えることではありません。役に立つ問いを持って診察に行く、ということです。私たちは、どの問題を解こうとしているのか。効いているかどうかは、どうすれば分かるのか。どの変化を記録しておけばいいのか。

心理療法にも、ここで担う役割があります。認知行動的なアプローチから、対人関係・社会リズム療法、家族焦点化療法まで。

学び4——チェックリストより、自分のパターン

症状のリストは診断に役立ちます。予防は、変化が自分の生活にどう現れるかにかかっています。ある人では、睡眠の必要量が減り、熱中できる新しい計画が始まる。別の人では、いらだちや話す速さ。うつなら、引きこもりかもしれません。

どのサインも、1つだけでは何の証明にもなりません。一晩眠りが短かったことは躁状態ではなく、はかどった1週間は軽躁状態ではありません。大事なのは、いつもの自分と比べた変化のまとまりが、しばらく続き、生活の機能に影響しているかどうかです。

本書が気分の記録にこれほど紙面を割いているのは、そのためです。記録表で追うのは5つで十分です。気分、睡眠、エネルギー、活動、そして思考の速さや明晰さ(1日20秒で気分を記録する方法なら、さらに軽く続けられます)。記録することで不安が強まるなら、簡単にしましょう。見る項目を減らし、決まった時間に1回だけ振り返ります。記録は見通しをよくするためのものであって、落ちることのある試験にしてはいけません。

毎週ひとつ、安定のための小さな一歩を

情報で圧倒しません。スパムもありません。毎週、実際に使える小さなツールをひとつだけ届けます。無料です。

無料で登録する

学び5——必要になる前に、プランを作っておく

エピソードが立ち上がってくるとき、判断力や病識は変わりえます。だから予防プランは、決定のいくつかを落ち着いている時期に前倒しにしておきます。自分でいちばん当てになる早期サインを書き出します。そして、そのサインがまとまって現れたら何をするかを書いておきます。心配を口に出していいのは誰か。どの日課を守るか。どんなときに臨床家に連絡するか。どうなったら緊急とみなすか。(もっと詳しいひな形は、双極性障害の危機対応プランの作り方をご覧ください。)

プランには、してはいけないことも入れておきます。処方された薬を、担当医に相談せずに変えないこと。家族にエピソードの診断をさせないこと。誰か1人に、もう1人の大人を管理する責任を負わせないこと。そのかわりに、小さな手順を決めておきましょう。睡眠を守る。大きな決定を先送りにする。受診の予定を前倒しにする。プランは1枚に収め、エピソードのあとには毎回見直します。

安全についてのひとこと。差し迫った危険があるとき、あるいは安全を保てないときは、すぐに助けが必要です。日本では、生命や身体に差し迫った危険があるときは 119(救急) に、暴力や事件など警察の緊急対応が必要なときは 110(警察) に連絡してください。死にたい・消えたい気持ちがあるときは #いのちSOS 0120-061-338、つらさや孤立をひとりで抱えているときは よりそいホットライン 0120-279-338 に相談できます(いずれも通話料無料)。危機のページに国別の窓口をまとめています。いまのうちに番号をプランに書き込んでおきましょう。いちばんつらい瞬間は、探し始めるのに向いていません。

学び6——人間関係はケアの環境の一部

これは、家族が双極症の原因だという意味ではありません。パートナーが治療者になるべきだという意味でもありません。エピソードは、実際の家庭のなかで起きる、ということです。エピソードのあと、家族は目を光らせるようになることがよくあります。何度も確認されると監視のように感じられ、本人は身構え、その分だけ家族の心配も強まっていきます。

本書が示す道具は、あえてありふれたものです。積極的に聴く、具体的な行動を描写する、肯定的な形で頼む、問題は一度に1つずつ解く。「また躁になってきてる」と、「3晩、睡眠がずいぶん短くなっていて、活動的になっているように見えるよ。一緒に作ったプランを見てみない?」を比べてみてください。

心配を向けられる側にとって、耳を傾けることは同意することではありません。取り決めた理由がないのに繰り返される見張りには、線を引くこともできます。目指すのは、完全に意見が一致することではありません。恥をかかせずに心配を伝えられ、隠しごとをせずに自分で決める力を守れる関係です。

窓の光が差し込む静かな部屋で、向かい合って置かれた2脚の木の椅子。

学び7——回復は症状のコントロールより大きい

この版の序文で、ミクロウィッツはレジリエンスと生活の質により重きを置いています。症状を避けることだけを中心に組み立てた生活は、とても小さくなりうるからです。集中力や自信は、戻るのに時間がかかることがあります。それは怠けではありません。

よりよい問いは、「どうすれば何も起きる前の自分に戻れるのか」ではありません。「いまの自分が動き、適応し、大切なものへ進んでいくのに、何が役立つのか」です。前進とは、早めに助けを求められることや、慌てずにパターンに気づけることでもあります。

この本は読む価値があるか

あります。ただし、いくつかはっきりした条件つきで。

最大の強みは、統合されていることです。薬に重要な役割を与えながら、薬がすべての答えであるかのようには書きません。思いやりがありながら、あいまいにもなりません。読む人が責められることはなく、家族が非難されたり、取り締まり役にされたりすることもありません。

弱点は、出てからの年数と内容の濃さです。2019年の版に書かれた個々の薬についての記述や、新しく出てきた治療については、資格のある専門家と一緒に、いまのガイドラインと照らし合わせてください。そして444ページという分量は、集中がいちばん難しい時期に、宿題のように感じられかねません。

いちばん早い使い方

やる気を試す試験ではなく、参照する本として使いましょう。

診断を受けたばかりなら、まえがきと、体験を理解する章、診断に向き合う章、薬と折り合いをつける章、気分を扱う章から読み始めてください。そのうえで、いまいちばん必要なほうに合わせて、躁状態またはうつ状態の章へ進みます。

誰かを支える立場なら、まえがき、双極症の体験の章、気分を扱う章、そして伝え方・問題解決・スティグマの章から始めてください。鉛筆を持って読みましょう。ただし、どのページも相手への決まりごとに変えようとはしないでください。

窓辺で、小さく光る芽が出た素焼きの鉢を、両手でそっと包んでいる。

ひとつだけ持ち帰るなら

考え方を1つだけ選んでください。3つのレンズを持って受診する。2週間、いくつかの項目を記録する。早期サインのプランを1枚だけ下書きする。あるいは、信頼できる人が心配を伝えるときに使える一文を、一緒に決めておく。

気分の変化をすべてコントロールすることはできません。それでも、自分のパターンを学び、そのまわりに支えを築き、大事な決定を早めに行うことはできます。診断は、地図を変えるかもしれません。でも、人生がどこへ行けるかを決めるわけではありません。