30秒でわかること

  • 躁状態では、脳の「ブレーキ」が効きにくくなります。だから、正論で止めようとしてもうまくいかないことが多いです。
  • 計画は3つです。自分が錨になる、話をそらして行動を遅らせる、現実的な安全策を置く。
  • 本人が「自分は病気ではない」と本気で思っていることがあります。これは性格の問題ではなく、症状の一部として起こることがあります。
  • 赤信号を知っておきます。3日以上眠っていない、幻聴や妄想がある、自分や他人に危険がある。こういう場合は専門的な助けが必要です。
  • 支える人も、休む必要があります。空っぽの状態では、誰かの錨にはなれません。

なぜ正論が届かないのか

躁状態の脳を、アクセルが踏まれたままで、ブレーキが効きにくい車だと考えてみてください。その車に向かって「止まって」と言っても、ブレーキがつながっていなければ止まりません。

本人がわざと頑固になっているとは限りません。状態によっては、「自分はおかしくない」「周りが邪魔している」と本気で感じることがあります。これを、双極症(双極性障害)の睡眠でいちばん大事なルールとして説明することがあります。

そう考えると、相手を説得して勝つことが目的ではなくなります。目的は、火を大きくしないこと、安全を守ることです。

フェーズ1:まず自分が錨になる

相手を落ち着ける前に、自分の緊張を少し下げます。躁のエネルギーは部屋全体に広がります。相手が速いと、こちらも速くなり、声が大きくなり、会話が燃え上がりやすくなります。

部屋に入る前に、これだけやります。

  • 一度、深く息を吐く。
  • 肩を下げる。
  • 声を少し低くする。
  • いつもより20%ゆっくり話す。

あなたが静かなテンポを保つことで、部屋に別のリズムを置きます。すぐに相手が変わらなくてもかまいません。あなた自身が小さな楽しみにならないことが、まず大事です。

そして、自分の状態も確認してください。食べましたか。眠れましたか。支える側の消耗は、本当にあります。一度離れて休むことは、見手放すことではありません。

ドアの前で一度立ち止まり、ゆっくり息を吐く人。

フェーズ2:事実で争わず、行動を遅らせる

相手が大きな計画を話し始めるかもしれません。

「仕事を辞めて起業する。」

「今夜、車で遠くまで行く。」

「全部のお金をこの計画に使う。」

ここで「それは無理」「おかしい」と言うと、あなたはすぐに敵になってしまうことがあります。

使うのは、感情は受け止め、計画は承認しないという方法です。

「今、すごくエネルギーがあるのは伝わる。」

これは計画に賛成しているわけではありません。感情だけを受け止めています。

そのあと、行動を遅らせます。

「その話、明日の朝ごはんのあとにもう一度一緒に見よう。」

躁状態では、衝動が強くても、時間を置くだけで少し変わることがあります。今すぐ実行させないことが大切です。

相手が怒ったら、こう言えます。

「あなたの話を聞きたい。でも、この声の大きさでは続けられない。15分だけ別の部屋に行って、また戻るね。」

これは放棄ではありません。安全のための一時停止です。

フェーズ3:現実的な安全策を置く

躁状態では、実際の危険が起こることがあります。お金、運転、性、薬物やアルコール、衝動的な連絡。だから、現実的な安全策が必要です。

  • お金。 カードの利用を止める、上限を下げる、大きなお金を別口座に移す、家賃や生活費を先に守る。これは罰ではなく、未来の本人を守る行動です。
  • 車の鍵。 躁状態での運転は危険になることがあります。「運転は今日はやめよう。私が送るか、タクシーを呼ぼう」 と代替案を出します。
  • 環境。 明かりを落とす。テレビを消す。音楽を静かにする。部屋に入る刺激を減らします。躁は刺激で燃えやすいからです。
支える人にも、支えが必要です

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赤信号:すぐ助けを呼ぶとき

家族やパートナーは、しばしば待ちすぎてしまいます。怒らせたくない。大ごとにしたくない。本人を傷つけたくない。その気持ちは自然です。

でも、安全が最優先です。

次のどれかがある場合は、専門的な助けを求めてください。

  1. 3日以上ほとんど眠っていない。
  2. 幻聴、幻視、妄想など、現実とのつながりが切れている。
  3. 本人または周囲に危険がある。

日本で差し迫った危険がある場合は、**119(救急)または110(警察)**に連絡してください。電話では、できるだけ落ち着いてこう伝えます。

「精神的な危機です。双極症があり、躁状態の可能性があります。犯罪としてではなく、医療的な危機として対応してほしいです。」

自殺や自傷の危険がある場合も待たないでください。死にたい・消えたい気持ちの相談先として、#いのちSOS 0120-061-338よりそいホットライン 0120-279-338 があります。

LEAPという考え方

相手を支援につなげるとき、正面から「あなたは病気だ」と言うほど、相手は防御的になることがあります。そこで役に立つのが、LEAPという考え方です。

  • Listen: まず聞く。
  • Empathize: 感情に寄り添う。
  • Agree: 小さく一致できる点を探す。
  • Partner: 一緒に次の一歩を決める。

たとえば、相手が「自分には大きな使命がある」と言うなら、内容に賛成せずに、こう言えます。

「それほど強く感じているんだね。大きなことをするにも、まず身体を休ませたほうが明日もっと動けると思う。」

病気を憎んでも、本人を敵にしないこと。それが大切です。

嵐のあと

躁状態が終わると、あとから強い恥や落ち込みが来ることがあります。支える側も疲れ切っています。

そのとき、「だから言ったでしょ」は避けたい言葉です。代わりに、こう言えます。

「あのときは症状が強かった。私たちは乗り切った。今は片づけていこう。」

落ち着いている時期に、エピソード後の約束を作ることも役に立ちます。

「私が3日眠れなくなったら、あなたが車の鍵を預かることを、元気な今の私が許可します。」

元気なときに決めた約束は、次の危機のときに、支える人を「悪者」から「約束を守る人」に変えてくれます。

今日できる小さなことは、主治医、地域の相談先、緊急連絡先をスマホの目立つ場所に入れておくことです。危機の真ん中で番号を探すのは、とても難しいからです。

あなたは一人で全部を背負う必要はありません。安全を選ぶことは、愛のかたちです。

安全な場所に置かれた車の鍵。躁状態のときの小さな安全策。